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東日本大震災後6年目を迎えて「第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか」

東北大学

2017/03/07 18:48

東日本大震災後6年目を迎えて
東北大学 経済学研究科・災害科学国際研究所 教授 吉田 浩


第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか

昨日のコラムでは、宮城県のアンケート結果で、健康状態がわるいとする人に比率が高いことを紹介しました。ただし、これは現在時点の健康状態であるので、この結果からのみでは、この現在の健康状態のわるさが100%震災の影響かどうかがわかりません。そこで、健康状態がわるいと回答された方に、さらにその健康状態に東日本大震災は悪く影響していますかと尋ねました。ここでは、アンケートの中の「かなり悪く影響している」「ある程度悪く影響している」「少し悪く影響している」を影響あり、「ほとんど悪くは影響していない」「震災は全く悪く影響していない」を影響なしとしました。

1.全体としての健康に及ぼす影響

最初に、全体としての健康に関して、東日本大震災の影響について聞いた結果を見ることとします。表1では、宮城県で東日本大震災の「影響あり」とする回答が43%とかなり高くなっており、逆に福島県では「影響なし」という回答が70%近くにも及んでいます。これは、宮城県には他の被災地から震災理由で転居した人が多かったこと、福島県では経済的な影響、宮城県では健康上の影響が顕著であることなどが言えます。
  
2.身体の健康におよぼした影響
全体の健康への影響の内容をより詳しく知るために、以下では身体の健康影響とこころの健康への影響と分けて尋ねてみた結果を見ることとします。

表2は、このうち、身体の健康に関して東日本大震災の影響を尋ねた結果をまとめたものです。これを見ると、全体としての健康と同様に、宮城県で東日本大震災の影響ありと答えた人の比率が、全体平均の20%台より高く、30%台になっています。この比率は福島県より高く、およそ3人に1人の人が東日本大震災は身体の健康にわるく影響していると答えています。

3.心の健康におよぼした影響
次に、心の健康に対する東日本大震災の影響に関して尋ねた結果を見ることとします。表3を見ると、身体の健康のケースの回答とは2つの点で違いがあることがわかります。
違いの第1は、全体平均として、身体の健康よりも心の健康の方で東日本大震災が悪く影響したと答えた人に比率が高いということです。前者は表2では28.7%でありましたが、表3では40%台と増えています。この集計結果から、東日本大震災は、心の健康により大きく影響を及ぼしたことがわかります。

4.仕事や社会生活、日常生活に関する意欲への影響
最後に、身体の健康、心の健康とみてきましたが、それらが暮らしに影響する一つの内容として、「仕事や社会生活、日常生活に関する意欲」に対して、東日本大震災が影響を及ぼしたのかどうかという点について、尋ねました。健康状態がすぐれないことは望ましいことではありませんが、生活に希望や意欲がないことがあると、それはまた困ったことになりますし、本当の意味で被災地が復興したことにならないと考えられるからです。

結果は表4に示されています。ここでは、表2や表3の結果と異なったまた以外な結果が出ています。いままで、身体の健康や心の健康では、トップとなることのなかった岩手県が「仕事や社会生活、日常生活に関する意欲」に関して、東日本大震災が悪く影響していると答えている人の割合が57%過半数でトップになっています。

5.地域によって異なる震災の影響の量と質
このように、東日本の大震災の影響は地域によってその程度が異なるだけではなく、その内容も異なるということがわかりました。大まかに言って、宮城県は身体の健康分野に影響があったとする人の比率が高く、福島県では心の健康に東日本大震災が悪く影響したと答えた人が多く、そして仕事や社会生活、日常生活に関する意欲に関しては、岩手県の回答者です震災が悪く影響したと答える人が多いという結果になりました。

震災6年目を迎え、それぞれの地域で復興の様子に違いが出ているだけではなく、対処するべき問題の内容も違いがあることを踏まえて、より優先度の高い問題に復興の力点をおいていくことが求められているといいえます。

次回は「第3回 震災の子供たちへの影響」です。
配信日程:3月8日(水) 配信予定

【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授
高齢経済社会研究センター長
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、玩具福祉学などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。