- 「東日本大震災後6年目を迎えて」第1回 震災6年目の被災地の暮らしと健康の状況
- 東日本大震災後6年目を迎えて「第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか」
- 「東日本大震災後6年目を迎えて」第3回 震災の子供たちへの影響
東日本大震災後6年目を迎えて「第4回 震災の教訓は根付いているか」
東北大学
2017/03/09 11:06
東日本大震災後6年目を迎えて
東北大学 経済学研究科・災害科学国際研究所 教授 吉田 浩
第4回 震災の教訓は根付いているか
第1回から第3回までは、被災地の地域別に暮らしや健康、子どもたちの様子に6年前の東日本大大震災が及ぼした影響を見てきました。第4回目と第5回までは、視点を過去から現在、そして将来へと振り替えて、アンケート結果を見て行きたいと思います。
1.災害に対する備え(地震保険)
以下では、災害に対する備えができているかどうかについて見ることとします。ここでは、災害に対する備えとして「十分にできている」「ある程度できている」を「できている」、「あまりできていない」「全くできていない」をできていないとして集計しました。
はじめに、経済的な備えとして地震保険への加入状況について質問した結果を見ることとします。表1では、地震保険による加入状況の結果です。ここでは、繰り返し宮城県沖地震の経験をしてきた宮城県が50%以上で備えが「できている」と答えています。
これに対して、近いうちに大きな地震が来ると予想される東京都ではまだ37%あまりしか備えができていません。同様の状況は岩手県でも起きています。東日本大震災の場合では、支援金がおよそ300万円、義援金がおよそ100万円と言われています。それだけでは家は再建できませんし、もともとの家に住宅ローンが残っていた場合には、新しい家を建てるための住宅ローンを借り負担もかかってしまします。また、通常の火災保険は火事には対応しますが、地震による損害はカバーされません。
もし、地震保険に適切に加入していれば、建物で1,000万円、家財で500万円の保険金が給付され、合計1,900万円で住宅再建のためのスタートを切ることができる例が紹介されています※。また、地震保険のための保険料(掛け金)は、その年の契約者の所得から控除され、税金が軽くなります。(※詳しくは、損害保険協会等のhttp://www.jishin-hoken.jp/ のWEBページを参照ください。)
私たちの科学がどんなに発達しても、地震の発生を止めることはできません。しかし、地震保険等によって損害からの回復をなるべくスムースにする工夫はできますので、地震保険への加入を検討するのも有効な災害対策です。
2.災害に対する備え(地震保険)
次に、「緊急地震速報などを入手できるように機器や携帯の設定をしている」かについて尋ねた結果を見ることとします。
表2を見ると、宮城県で「できている」とする回答が70%以上と非常に準備率が高いことがわかります。これに対して、東京は50%程度と緊急地震速報などを入手できるような準備が遅れていることがわかります。
緊急地震速報は、地震に関する情報をいち早く配信することにより、避難行動などが速やかにかつ適切にできるようにするためのものです。緊急地震速報を受信した場合は、あわてずにまずは自分の身を守るための行動をとってください。また、可能ならば周りの人への声掛けもしてください。
ご自分の携帯電話で緊急地震速報が配信されるようにする設定に関しては、気象庁のWEBページ(詳しくはこちら) を参照してください。
3.適切な防災行動(危険個所に近づかない)
次に、昨年の年末、11月22日午前5時59分、福島県沖を震源とするM7.4の地震が発生し、福島県、茨城県、栃木県で震度5弱を観測し、津波警報も発令されました。この時に適切な避難行動、防災行動がとれたのかについて尋ねた結果を見ることとします。
東日本大震災では津波で被害を受けた人が多くいました。11月の地震でも津波警報が発令され、実際に宮城県では川を遡上する津波も観測されました。そこで、津波警報の発令下で「河口や海など津波の危険がある水辺の場所に近づかない」という行動ができたか否かについてみることとします)。以下では「十分に適切な行動がとれた」「ある程度は適切な行動がとれた」を「できた」、「あまり適切な行動がとれなかった」「全く適切な行動がとれなかった」を「できなかった」として集計しました。
表3の結果を見ると、宮城県よりも岩手県で「適切な行動がとれた」とする人が多くなっています。これは、表2の岩手県の緊急地震速報の準備率から比較すると、相当優れた防災行動と評価することができます。逆に、福島県では4人に1人、東京都では3人に1人以上の人が適切な行動ができなかったと答えており、防災行動の必要さの理解が進むような工夫が期待されます
4.適切な防災行動(車で避難しない)
最後に、11月22日の福島県沖地震で、避難所に向かう際に渋滞をされるため自動車を使わないという行動がとれたかどうかについて尋ねました。避難所に避難しなかったなど、この行動に該当しない人回答は除外しました。東日本大震災の時には津波からの避難で自動車が殺到して渋滞が発生し、津波の危険にさらされたということがありました。
表4の結果を見ると、宮城県で適切な行動がとれたとする回答は54.5%と東京都と同じくらいに低く、福島県と合わせてまだ改善の検討が必要です。これにくらべて、岩手県の回答は7割近くが適切な行動がとれたとされています。
避難に自動車を使うべきかどうかについては、一律に使用するべきではないと決まっているわけではありません。政府は「徒歩避難」の原則に従い、自動車による避難は例外事項として検討するとしています。(詳細は内閣府「自動車で安全かつ確実に避難できる方策」 詳しくはこちら を参照ください。)
自分の住んでいる地域が、自動車での避難に問題がある地域なのか、自動車避難せざるを得ない地域であるかどうかは、地元に自治体に確認されてください。そのためには、日ごろから地域の防災訓練等に参加したりして、自宅から指定避難所までのルートと障害をよく確認することが大切です。
次回、第5回は「震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか」について、アンケート結果から考えます。
「第5回 震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか」。
配信日程:3月10日(金) 配信予定
【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授
高齢経済社会研究センター長
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、玩具福祉学などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。
【アーカイブ】
第1回 震災6年目の被災地の暮らしと健康の状況
第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか
第3回 震災の子供たちへの影響
東北大学 経済学研究科・災害科学国際研究所 教授 吉田 浩
第4回 震災の教訓は根付いているか
第1回から第3回までは、被災地の地域別に暮らしや健康、子どもたちの様子に6年前の東日本大大震災が及ぼした影響を見てきました。第4回目と第5回までは、視点を過去から現在、そして将来へと振り替えて、アンケート結果を見て行きたいと思います。
1.災害に対する備え(地震保険)
以下では、災害に対する備えができているかどうかについて見ることとします。ここでは、災害に対する備えとして「十分にできている」「ある程度できている」を「できている」、「あまりできていない」「全くできていない」をできていないとして集計しました。
はじめに、経済的な備えとして地震保険への加入状況について質問した結果を見ることとします。表1では、地震保険による加入状況の結果です。ここでは、繰り返し宮城県沖地震の経験をしてきた宮城県が50%以上で備えが「できている」と答えています。
これに対して、近いうちに大きな地震が来ると予想される東京都ではまだ37%あまりしか備えができていません。同様の状況は岩手県でも起きています。東日本大震災の場合では、支援金がおよそ300万円、義援金がおよそ100万円と言われています。それだけでは家は再建できませんし、もともとの家に住宅ローンが残っていた場合には、新しい家を建てるための住宅ローンを借り負担もかかってしまします。また、通常の火災保険は火事には対応しますが、地震による損害はカバーされません。
もし、地震保険に適切に加入していれば、建物で1,000万円、家財で500万円の保険金が給付され、合計1,900万円で住宅再建のためのスタートを切ることができる例が紹介されています※。また、地震保険のための保険料(掛け金)は、その年の契約者の所得から控除され、税金が軽くなります。(※詳しくは、損害保険協会等のhttp://www.jishin-hoken.jp/ のWEBページを参照ください。)
私たちの科学がどんなに発達しても、地震の発生を止めることはできません。しかし、地震保険等によって損害からの回復をなるべくスムースにする工夫はできますので、地震保険への加入を検討するのも有効な災害対策です。
2.災害に対する備え(地震保険)
次に、「緊急地震速報などを入手できるように機器や携帯の設定をしている」かについて尋ねた結果を見ることとします。
表2を見ると、宮城県で「できている」とする回答が70%以上と非常に準備率が高いことがわかります。これに対して、東京は50%程度と緊急地震速報などを入手できるような準備が遅れていることがわかります。
緊急地震速報は、地震に関する情報をいち早く配信することにより、避難行動などが速やかにかつ適切にできるようにするためのものです。緊急地震速報を受信した場合は、あわてずにまずは自分の身を守るための行動をとってください。また、可能ならば周りの人への声掛けもしてください。
ご自分の携帯電話で緊急地震速報が配信されるようにする設定に関しては、気象庁のWEBページ(詳しくはこちら) を参照してください。
3.適切な防災行動(危険個所に近づかない)
次に、昨年の年末、11月22日午前5時59分、福島県沖を震源とするM7.4の地震が発生し、福島県、茨城県、栃木県で震度5弱を観測し、津波警報も発令されました。この時に適切な避難行動、防災行動がとれたのかについて尋ねた結果を見ることとします。
東日本大震災では津波で被害を受けた人が多くいました。11月の地震でも津波警報が発令され、実際に宮城県では川を遡上する津波も観測されました。そこで、津波警報の発令下で「河口や海など津波の危険がある水辺の場所に近づかない」という行動ができたか否かについてみることとします)。以下では「十分に適切な行動がとれた」「ある程度は適切な行動がとれた」を「できた」、「あまり適切な行動がとれなかった」「全く適切な行動がとれなかった」を「できなかった」として集計しました。
表3の結果を見ると、宮城県よりも岩手県で「適切な行動がとれた」とする人が多くなっています。これは、表2の岩手県の緊急地震速報の準備率から比較すると、相当優れた防災行動と評価することができます。逆に、福島県では4人に1人、東京都では3人に1人以上の人が適切な行動ができなかったと答えており、防災行動の必要さの理解が進むような工夫が期待されます
4.適切な防災行動(車で避難しない)
最後に、11月22日の福島県沖地震で、避難所に向かう際に渋滞をされるため自動車を使わないという行動がとれたかどうかについて尋ねました。避難所に避難しなかったなど、この行動に該当しない人回答は除外しました。東日本大震災の時には津波からの避難で自動車が殺到して渋滞が発生し、津波の危険にさらされたということがありました。
表4の結果を見ると、宮城県で適切な行動がとれたとする回答は54.5%と東京都と同じくらいに低く、福島県と合わせてまだ改善の検討が必要です。これにくらべて、岩手県の回答は7割近くが適切な行動がとれたとされています。
避難に自動車を使うべきかどうかについては、一律に使用するべきではないと決まっているわけではありません。政府は「徒歩避難」の原則に従い、自動車による避難は例外事項として検討するとしています。(詳細は内閣府「自動車で安全かつ確実に避難できる方策」 詳しくはこちら を参照ください。)
自分の住んでいる地域が、自動車での避難に問題がある地域なのか、自動車避難せざるを得ない地域であるかどうかは、地元に自治体に確認されてください。そのためには、日ごろから地域の防災訓練等に参加したりして、自宅から指定避難所までのルートと障害をよく確認することが大切です。
次回、第5回は「震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか」について、アンケート結果から考えます。
「第5回 震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか」。
配信日程:3月10日(金) 配信予定
【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授
高齢経済社会研究センター長
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、玩具福祉学などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。
【アーカイブ】
第1回 震災6年目の被災地の暮らしと健康の状況
第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか
第3回 震災の子供たちへの影響