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【これからどうなる?!最先端の教育事情】 第4回 先生の代わりにスマホが指南?!

2016/03/31 10:27

第4回:先生の代わりにスマホが指南?!

■動きを検知するコンピュータとしてのスマートフォン
前回,プログラミング教育の動向についてお話しいたしましたが,このプログラミングを行うことで,新たな技能習得の方法が実現しました。それが,宮城教育大学 安藤研究室で進めているSpAT(Smartphone Assisted Training)です。

世帯普及率が約63%のスマートフォン(総務省 平成 26年版 情報通信白書)。このスマートフォンで動くアプリは,プログラミングすることで誰でも作ることができます。特にスマートフォンには,さまざまなセンサーが内蔵されており,プログラムでそのセンサーの値を調べ,速さや向き,角度などから,どのような動きをしているのかを推定することが可能です。

安藤研究室では,2009年から,のこぎりびきや,かんながけ,釘打ちなどの基本的な技能動作を,スマートフォンを使ってトレーニングする方法を研究しています。

■案外正しく把握できない自分の動き
自分自身がどのように動いているのか?鏡の前で動いてみると,自分が思っている動きと実際に鏡に映る姿は違うものです。動きだけではありません,自分の身体の状態,例えば,猫背になっていることも,他の人から指摘されて気が付くことがあります。

中学校で技術・家庭科では,色々な動きを伴う技能を指導します。のこぎりびき,かんながけ,釘打ち等は,みなさんも馴染みがあるかもしれません。

しかし,現在ではこうしたものを作ることで学ぶという技術の時間がかなり削減されているのです。

1回50分の授業が,中学校1・2年生では週に1回,中学3年生では,なんと2週間に1回あるだけです。正しい動作で道具を使えることは,安全の面からも,作業の正確性の面からも重要なのですが,初めて使う道具は,すぐに使えるようにはなりません。とはいえ,授業の時間もない。現在はそのような状況なのです。

■スマートフォンで動きを評価する仕組みを教育に活かす
こうした問題を解消しようと,安藤研究室では,のこぎりやかんなにスマートフォンを取り付け,あるいは,のこぎりの柄に見立てた棒や,かんなに見立てたペットボトルにスマートフォンをつけて作業をすることで,正しい動きと比べてどの程度ずれているのかを自動的に評価するアプリを開発しました。

仙台市内のいくつかの中学校で実際の技術の授業でも試験的にこれらのアプリを導入してもらっています。この方法では,授業での2つの潜在的な課題を解消できました。

1つ目は,先生によらず自分自身で動き・フォームのどこを改善すれば良いか把握できること。

2つ目は,スマートフォンから送られてくる動き・フォームのデータによって,各生徒の技能を先生が把握できることです。


実際ののこぎりに取り付けたスマートフォンで練習する様子


実際のかんなにスマートフォンが組み込まれた様子

授業では,一人の先生に対して大勢の生徒がいます。先生はできる限り全員の生徒を見るようにしていても,限られた時間の中で直接教えてあげられない生徒も必然的に出てきてしまいます。

中学校での基本的な道具の使い方であれば,スマートフォンのセンサーで十分に詳細な分析ができ,それに基づいてアドバイスを表示することが可能ですので,生徒が正しい動きを一人で練習できるようになりました。

また,各生徒の動き・フォームデータを先生のタブレット端末で一覧できる機能で,どの生徒が伸び悩んでいるのか,上達が早いのかを把握することが可能です。これを使えば,データからどの生徒を優先的に指導すると良いかの目途を立てることができます。

生徒によって,技能の程度は様々ですから,スマートフォンからのアドバイスでもあまり上達しない場合には,やはり先生が直接見てあげて,アドバイスすることが求められます。


のこぎりびきの上達の記録グラフと,作業結果・アドバイス


のこぎりびきの作業結果の分析画面


かんなラーニングでの練習結果の画面
(アドバイス画面と,理想と自分の結果の違いのグラフ)

板垣翔大, 安藤明伸, 安孫子啓, 堀田龍也:かんな掛け動作の学習を支援するスマートフォンアプリケーションの開発と家庭学習における有用性の評価,日本産業技術教育学会誌, Vol.58 No.1, (2016)より

■センシング技術のこれから
こうした普段使用しているスマートフォンのセンサーだけでもある程度の上達が見られます。今後,センサーを活用した動きの検知とデータ分析・アドバイスという流れは一層広がることでしょう。

既に,スポーツの分野でもランニングの状態を把握・記録し,同様の原理でゴルフやテニスのスイングを評価する製品が発売されています。これまでは,自宅での宿題は座学のものが中心でしたが,今後こうしたテクノロジーが普及することで,技能の宿題が出るようになるかもしれません。

今回紹介した,のこぎりびきと,かんながけ自習アプリ(Android版)は,以下から無料でダウンロード可能です。

のこぎりラーニングのダウンロードページは、こちら

かんなラーニングのダウンロードページは、こちら

次回は「第5回 便利?危険?スマートフォンとの付き合い方と情報モラル」です。
配信日程:4月1日(金) 予定

【プロフィール】
安藤 明伸
宮城教育大学 技術教育講座 准教授
1973年札幌市生まれ。北海道教育大学大学院修了。京都工芸繊維大学 博士課程修了。博士(学術)。
札幌市内の市立中学校 技術科教諭を経て,現在宮城教育大学 技術教育講座(准教授)。
現場に立脚し,教育工学的な立場から,技術科教育と情報教育を専門。
特に情報・ICTを用いた授業改善や,モバイルデバイスを活用した指導法開発,教材開発に従事。
ここ最近では,スマートフォンのセンサー機能を用いて,生徒自身がのこぎり引きの動きを独学できる教材や情報モラル教材の開発で,学術団体より表彰。
中学校「技術・家庭 技術分野」の教科書の情報分野の執筆。
その他役職
日本デジタル教科書学会理事,モバイル学会理事,文部科学省中央教育審議会専門員(初等中等教育分科会)情報教育に関するワーキンググループ委員,仙台市情報モラル教育推進会議アドバイザー。