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地域で守り、地域で育てる豊かな自然 NPO法人田んぼ

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2018/08/14 18:57

地域で守り、地域で育てる豊かな自然 NPO法人田んぼ

先日、農林水産省が認定する「日本農業遺産」に大崎市など1市4町にまたがる大崎耕土が選ばれました。また、同地域を「世界農業遺産」登録への認定に向けて申請するというニュースが大々的に報道されています。大崎耕土の世界農業遺産登録に向けては、行政、農家、学校、企業、NPOなど、多くの関係機関が協力体制を作っており、その関係機関の一つにNPO法人田んぼがあります。

NPO法人田んぼは、大崎市田尻大貫地区に拠点を置き、人と自然が共生できる地域づくりを目的として、「ふゆみずたんぼ」という稲作農法を核に、生物多様性の保全活動を行っている団体です。

マガンと「ふゆみずたんぼ」

大崎市は全国的に見てもマガンが飛来する数少ない地域の一つです。日本に飛来するマガンの8割以上が栗原市・登米市にまたがる伊豆沼・内沼と大崎市の蕪栗沼、化女沼で越冬していると言われています。

しかし、飛来地が一極集中するようになったことで、マガンの糞によって沼の水質が悪化したり、周辺の米をマガンが食べてしまう食害も多発したりしました。そこでマガンのねぐらの分散を図るために導入されたのが、「ふゆみずたんぼ」です。

「ふゆみずたんぼ」とは、近代的な稲作では行わなくなってしまった冬期の湛水を行う農法のことです。冬の間も田んぼに水が張られていることで、イトミミズや微生物が活動しやすい環境が保たれ、土壌が豊かになります。そのため、「ふゆみずたんぼ」では有機栽培や、究極の場合には、無施肥の稲作が可能となります。

平成15年頃から、蕪栗沼周辺の水田ではこの「ふゆみずたんぼ」が導入され、マガンも蕪栗沼だけでなく周辺水田にも数多く飛来するようになりました。この取組みをきっかけに、水田が持つ湿地としての生物多様性向上の機能が見直され、平成17年には「蕪栗沼・周辺水田」がラムサール条約登録湿地となりました。

このとき、「ふゆみずたんぼ」の導入と技術確立に寄与したのが、NPO法人田んぼの前身の「ふゆみずたんぼプロジェクト」でした。

田んぼの復興にも活用

NPO法人田んぼは平成18年に法人として設立されて以降、拠点である田尻だけでなく、沿岸部の津波被災水田など、大崎市外でも「ふゆみずたんぼ」の普及を進めてきました。

とくに津波が浸水した水田では、「ふゆみずたんぼ」を実施するにあたって、水質・土質・生物などのモニタリングを行っていました。その結果、「ふゆみずたんぼ」には抑塩効果があることがわかり、また、水田の復旧後には米の収量が被災前に比べて増加したことも確認できました。

被災した水田を復旧させるだけでなく、沿岸地域に伝わっていた「津波の後の田んぼは良くなる」という言い伝えを実証することにもなったのです。

▲気仙沼大谷の被災水田の復興作業

こうした活動が評価され、平成25年には公益財団法人イオン環境財団が主催した「第3回生物多様性日本アワード」のグランプリを受賞しました。

客観的に生物文化多様性示す

このように「ふゆみずたんぼ」の普及啓発に努めてきましたが、現在は人と自然が共生できる地域社会のあり方を求めて、さらに一歩歩みを前に進めています。

それが『生物文化多様性の指標作り』です。これは特定の生物群(クモ類やトンボ類など)がその地域に生息できているかどうかといった12項目の指標を作り、その指標にもとづいて点数をつけていくことで、ある地域の生物文化多様性を土の指標、景観の指標、減農薬・無農薬の指標の3つの視点から客観的に示すことができるというものです。

NPO法人田んぼはこの指標作りを大崎市と協働で進めており、昨年夏から1年間、大崎耕土に該当する大崎市、美里町、涌谷町、加美町、色麻町の各地の生きもの調査を行ってきています。このような指標は他に例がなく、理事長の岩渕成紀さんは「完成すれば世界初になるのでは」と話しています。

子どもたちと創る地域の未来

もう一つ、NPO法人田んぼの活動として忘れてはならないのが、地元の大貫小学校との協働です。

種を蒔いてから、米が食べられるようになるまで、稲作には多くのプロセスがあります。種まき、代掻き、田植え、除草、稲刈り、脱穀、選別、収穫祭といった具合です。NPO法人田んぼでは、これらの全ての過程を大貫小学校の5年生児童に毎年体験してもらっています。

▲丁寧に手植えしていきます

この地元小学校での取り組みについて、岩渕さんは次のような思いを持っています。「地域の未来は地域の子どもたちが創ります。私たちは大貫という地域が好きだから、この地で営まれてきた稲作が、人と自然が共生し得る形で続いていってほしいと望んでいます。だからこそ、将来の地域の担い手である子どもたちにその思いを伝えていかなければいけないのです」。

仙台の子どもたちにも体験チャンス

NPO法人田んぼは今年、仙台市に住む子どもたちとその親たちにも、こうした「ふゆみずたんぼ」の取り組みを体験してもらうイベントを開催予定です。

1回目のイベントは、6月4日(日)に行う「ふゆみずたんぼ」の代掻き・田植え・生きもの調査です。代掻きは昨年までは、人の手だけで行ってきましたが、今年は農耕馬が登場します。

日頃、田んぼやそこに棲む生きものと疎遠な都市部の子どもたちに、馬と一緒に田んぼの中で泥だらけになって、遊びながら自然の素晴らしさを体験してもらいます。

2回目は秋に開催する稲刈りイベントです。刈った稲で穂仁王(ほんにょ)を組んでみるところまで体験します。穂仁王は稲を干すために組むものですが、イナゴやカマキリなどの昆虫が穂仁王を利用して繁殖していることも学ぶことができます。

これらのイベントは「いきものが住みやすい環境づくり」をテーマに全国各地で開催されている「SAVE JAPAN プロジェクト」の一環として、NPO法人田んぼと認定NPO法人杜の伝言板ゆるるの共催で実施します。

SAVE JAPAN プロジェクトの特徴は、現地のNPOだけでなく、協力団体として認定NPO法人日本NPOセンター、協賛団体として損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以下、損保ジャパン日本興亜)が関わり、一般市民を対象とした体験型環境保全活動を行うことにあります。

※SAVE JAPANプロジェクトは、損保ジャパン日本興亜から寄付をいただき実施しています。損保ジャパン日本興亜の自動車保険等のお客さまにご契約時、「 Web証券」や「Web約款」を選択いただいた場合や自動車事故の修理時にリサイクル部品などを活用いただくことで、環境NPOなどへ寄付を行うものです。

そして、このプロジェクトは損保ジャパン日本興亜の新しい社会貢献スタイル(※)によって支えられています。

SAVE JAPAN プロジェクトの詳細については、左のHPもご覧ください。

SAVE JAPAN プロジェクト
「農耕馬と人による代掻きと、芒種の田植えを体験しよう」
■日 時:6月4日(日)8:00~17:00
※仙台駅東口に集合し、現地へバスで移動
■場 所:ふゆみずたんぼ実験田(大崎市田尻大貫)
■参加対象:幼稚園年長児以上の子どもとその保護者
■参加費:無料(※ただし、昼食代は実費500円)
■持参物:長靴、タオル、帽子、着替え、水筒
■問合せ:npo@yururu.com
SAVE JAPAN プロジェクトWEBサイト
http://savejapan-pj.net/

NPO法人田んぼ
〒989-4302 大崎市田尻大貫字荒屋敷29-1
●TEL/FAX: 0229-39-3212
●E-mail:npotambo@yahoo.co.jp
●URL:http://npotambo.com

月刊杜の伝言板ゆるる2017年4月号

http://www.yururu.com/?p=2332