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【これからどうなる?!最先端の教育事情】第5回 便利?危険?スマートフォンとの付き合い方と情報モラル
2016/04/01 10:17
第5回 便利?危険?スマートフォンとの付き合い方と情報モラル
これまで4回にわたって教育の情報化,宮城県のICTの取り組みに等についてお話してきました。本最終回では,情報化社会を生きる子供たちに不可欠な情報モラルに関する最新の教育事情をお伝えします。
■増えるインターネット上でのトラブルと依存
宮城県の小学生への携帯電話・スマートフォン普及率は51.7%で全国33位です。
順位的には高くないものの,クラスの約半数が持っていることになります。携帯電話・スマートフォンはあまりにも便利すぎるので,実は使う側に高い能力を要求してきます。そのため無意識に使うことで色々なトラブルにつながります。
文部科学省 全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)は、こちらから
平成25年度の内閣府調査では,小学生は4.8%,中学生は32.9%,そして高校生では59.7%もの子どもたちが何らかのトラブルを経験しています。下の図は,保護者の認識と子供たちのトラブルの経験の比較です。中・高校生では,保護者が思うよりも実際のトラブルが多いことを示しています。
内閣府:平成25年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果(概要)」は、こちらから
インターネット上のトラブルなどの経験(青少年の実態と保護者の認識とのギャップ)
インターネットトラブル事例集(平成26年度版)は、こちらから
こうしたトラブルは,世代によって傾向が違うと言われています。例えば,小・中学生ではコミュニケーションが原因のトラブルが目立つそうです。一方高校生では,コミュニケーションのトラブルは減少傾向の反面,見知らぬ人と実際に会うことや社会的に問題のある投稿によるトラブルが多くなるとのこと。
携帯電話・スマートフォンの普及で,もはや通話だけでなく電子メール,メッセージ交換などのコミュニケーション,ゲームや勉強など様々なことが片手で行える現在,教育現場にはどのように対応しているのでしょうか。
■時代と共に変わることと,変わらないこと
インターネットで起こるトラブルには,新しいテクノロジー自体が問題である場合(例えば,コンピュータウィルスや,悪意のあるアプリによる個人情報流出など)と,それを扱う側に問題がある場合(例えば,誹謗中傷を書くなど)があります。
学校では,従来からの,日常生活での道徳・モラル・倫理は,これまで以上に重視され,それだけではなく,情報化社会の特性やネットワークの理解を深めて,自分自身で正しく活用するために的確な判断ができる力を身につけるよう指導しています。
仙台市教育委員会では,今年2月に情報モラル教育実践ガイドを作成し,学校および保護者の役割を明示し,情報モラルを小・中学校で年間を通してどのように教えていくか,道徳だけでなく,色々な教科で情報モラルを扱うモデルや実際に使用できる教材などを紹介しています。
例えば小学校1年生では,約束や決まりを守ることの大切さから始め,高学年では危険を予知して避けることなどを扱うことが例示されています。
学校での情報モラルをどう教えるか先生同士で研修している様子
仙台市 情報モラル教育実践ガイドより
■情報モラルを「知る」から「考える」機会を
モラルの涵養やルール作りは,学校や家庭で「知る」だけではなく,「考える」ことで効果が期待できます。
そこで,宮城教育大学 安藤研究室では,考えることを楽しめるストーリーブックを開発しました。これは,スマホを巡るストーリーの中に設けた分岐場面でどの選択肢を選ぶかでストーリー展開が変化するため,意思決定を通して対応を考えていく教材です。
この教材のストーリーをご紹介しましょう。まず主人公が勉強を始める時に,スマートフォンを居間に置くか,勉強机に持って行くかでストーリーが分岐します。中学生にもなると勉強で分からない点があっても,家庭で教えられない時がありますから,そのような時は確かにスマートフォンで調べたりすると解決につながることがあります。
しかし,ストーリーの中で勉強机に持ち込む選択肢を選ぶと,友達からのメッセージが表示されてしまうことで,勉強に集中できない状況になってしまいます。これは一例ですが,ルールがないことで生じる多様な展開の中で,どのようなルールがあれば防げるのかを考えていける仕組みです。
宮城教育大学 安藤研究室で作成された家庭でのルール作りの大切さを考える教材
■「ルールがあるから止められる」家庭でのルール作りの大切さ
子供が携帯・スマートフォンを長時間使っていても,同一の人とメッセージ交換しているだけでなく,友だちの悩み相談だったり,学校の勉強のことを教えていたり,子供たちの友人関係は多様ですし,子供たちにとって大切な意味を持っています。
ですから頭では,もう止めなきゃと思っていても,色々な気遣いやしがらみで止めることを言い出しにくく,子供自身が困っていることもあるのです。
家庭にルールがあることで,止める理由を子供個人ではなく,家庭のルールにできるため,友だちとのメッセージ交換でも「ごめん,家のルールで9時までだから,切らなきゃいけないんだ。」と止めやすくなります。
ルール作りには,幾つか大切な点があります。そのうち4つを紹介します。
1:携帯・スマートフォンを預けたままにせず,家庭で話題にして,情報共有すること。
2:各家庭のスタイル・実情に応じて,親子で納得できるルールを考えて作ること。
3:作ったルールを友達とその保護者にも伝えて,わかってもらうこと。
4:ルールは作って終わりではなく,見直して修正していくこと。
仙台市の小学校で行われた,親子でのルール作り教室の様子
仙台市では,家庭向けのリーフレットも作成しており,そこにも幾つか重要なルールが記載されていますので,是非ご覧下さい。
仙台市教育委員会:大丈夫?ケータイ・スマホ 親子で考えよう情報モラルは、こちらから
【プロフィール】
安藤 明伸
宮城教育大学 技術教育講座 准教授
1973年札幌市生まれ。北海道教育大学大学院修了。京都工芸繊維大学 博士課程修了。博士(学術)。
札幌市内の市立中学校 技術科教諭を経て,現在宮城教育大学 技術教育講座(准教授)。
現場に立脚し,教育工学的な立場から,技術科教育と情報教育を専門。
特に情報・ICTを用いた授業改善や,モバイルデバイスを活用した指導法開発,教材開発に従事。
ここ最近では,スマートフォンのセンサー機能を用いて,生徒自身がのこぎり引きの動きを独学できる教材や情報モラル教材の開発で,学術団体より表彰。
中学校「技術・家庭 技術分野」の教科書の情報分野の執筆。
その他役職
日本デジタル教科書学会理事,モバイル学会理事,文部科学省中央教育審議会専門員(初等中等教育分科会)情報教育に関するワーキンググループ委員,仙台市情報モラル教育推進会議アドバイザー。
これまで4回にわたって教育の情報化,宮城県のICTの取り組みに等についてお話してきました。本最終回では,情報化社会を生きる子供たちに不可欠な情報モラルに関する最新の教育事情をお伝えします。
■増えるインターネット上でのトラブルと依存
宮城県の小学生への携帯電話・スマートフォン普及率は51.7%で全国33位です。
順位的には高くないものの,クラスの約半数が持っていることになります。携帯電話・スマートフォンはあまりにも便利すぎるので,実は使う側に高い能力を要求してきます。そのため無意識に使うことで色々なトラブルにつながります。
文部科学省 全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)は、こちらから
平成25年度の内閣府調査では,小学生は4.8%,中学生は32.9%,そして高校生では59.7%もの子どもたちが何らかのトラブルを経験しています。下の図は,保護者の認識と子供たちのトラブルの経験の比較です。中・高校生では,保護者が思うよりも実際のトラブルが多いことを示しています。
内閣府:平成25年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果(概要)」は、こちらから
インターネット上のトラブルなどの経験(青少年の実態と保護者の認識とのギャップ)
インターネットトラブル事例集(平成26年度版)は、こちらから
こうしたトラブルは,世代によって傾向が違うと言われています。例えば,小・中学生ではコミュニケーションが原因のトラブルが目立つそうです。一方高校生では,コミュニケーションのトラブルは減少傾向の反面,見知らぬ人と実際に会うことや社会的に問題のある投稿によるトラブルが多くなるとのこと。
携帯電話・スマートフォンの普及で,もはや通話だけでなく電子メール,メッセージ交換などのコミュニケーション,ゲームや勉強など様々なことが片手で行える現在,教育現場にはどのように対応しているのでしょうか。
■時代と共に変わることと,変わらないこと
インターネットで起こるトラブルには,新しいテクノロジー自体が問題である場合(例えば,コンピュータウィルスや,悪意のあるアプリによる個人情報流出など)と,それを扱う側に問題がある場合(例えば,誹謗中傷を書くなど)があります。
学校では,従来からの,日常生活での道徳・モラル・倫理は,これまで以上に重視され,それだけではなく,情報化社会の特性やネットワークの理解を深めて,自分自身で正しく活用するために的確な判断ができる力を身につけるよう指導しています。
仙台市教育委員会では,今年2月に情報モラル教育実践ガイドを作成し,学校および保護者の役割を明示し,情報モラルを小・中学校で年間を通してどのように教えていくか,道徳だけでなく,色々な教科で情報モラルを扱うモデルや実際に使用できる教材などを紹介しています。
例えば小学校1年生では,約束や決まりを守ることの大切さから始め,高学年では危険を予知して避けることなどを扱うことが例示されています。
学校での情報モラルをどう教えるか先生同士で研修している様子
仙台市 情報モラル教育実践ガイドより
■情報モラルを「知る」から「考える」機会を
モラルの涵養やルール作りは,学校や家庭で「知る」だけではなく,「考える」ことで効果が期待できます。
そこで,宮城教育大学 安藤研究室では,考えることを楽しめるストーリーブックを開発しました。これは,スマホを巡るストーリーの中に設けた分岐場面でどの選択肢を選ぶかでストーリー展開が変化するため,意思決定を通して対応を考えていく教材です。
この教材のストーリーをご紹介しましょう。まず主人公が勉強を始める時に,スマートフォンを居間に置くか,勉強机に持って行くかでストーリーが分岐します。中学生にもなると勉強で分からない点があっても,家庭で教えられない時がありますから,そのような時は確かにスマートフォンで調べたりすると解決につながることがあります。
しかし,ストーリーの中で勉強机に持ち込む選択肢を選ぶと,友達からのメッセージが表示されてしまうことで,勉強に集中できない状況になってしまいます。これは一例ですが,ルールがないことで生じる多様な展開の中で,どのようなルールがあれば防げるのかを考えていける仕組みです。
宮城教育大学 安藤研究室で作成された家庭でのルール作りの大切さを考える教材
■「ルールがあるから止められる」家庭でのルール作りの大切さ
子供が携帯・スマートフォンを長時間使っていても,同一の人とメッセージ交換しているだけでなく,友だちの悩み相談だったり,学校の勉強のことを教えていたり,子供たちの友人関係は多様ですし,子供たちにとって大切な意味を持っています。
ですから頭では,もう止めなきゃと思っていても,色々な気遣いやしがらみで止めることを言い出しにくく,子供自身が困っていることもあるのです。
家庭にルールがあることで,止める理由を子供個人ではなく,家庭のルールにできるため,友だちとのメッセージ交換でも「ごめん,家のルールで9時までだから,切らなきゃいけないんだ。」と止めやすくなります。
ルール作りには,幾つか大切な点があります。そのうち4つを紹介します。
1:携帯・スマートフォンを預けたままにせず,家庭で話題にして,情報共有すること。
2:各家庭のスタイル・実情に応じて,親子で納得できるルールを考えて作ること。
3:作ったルールを友達とその保護者にも伝えて,わかってもらうこと。
4:ルールは作って終わりではなく,見直して修正していくこと。
仙台市の小学校で行われた,親子でのルール作り教室の様子
仙台市では,家庭向けのリーフレットも作成しており,そこにも幾つか重要なルールが記載されていますので,是非ご覧下さい。
仙台市教育委員会:大丈夫?ケータイ・スマホ 親子で考えよう情報モラルは、こちらから
【プロフィール】
安藤 明伸
宮城教育大学 技術教育講座 准教授
1973年札幌市生まれ。北海道教育大学大学院修了。京都工芸繊維大学 博士課程修了。博士(学術)。
札幌市内の市立中学校 技術科教諭を経て,現在宮城教育大学 技術教育講座(准教授)。
現場に立脚し,教育工学的な立場から,技術科教育と情報教育を専門。
特に情報・ICTを用いた授業改善や,モバイルデバイスを活用した指導法開発,教材開発に従事。
ここ最近では,スマートフォンのセンサー機能を用いて,生徒自身がのこぎり引きの動きを独学できる教材や情報モラル教材の開発で,学術団体より表彰。
中学校「技術・家庭 技術分野」の教科書の情報分野の執筆。
その他役職
日本デジタル教科書学会理事,モバイル学会理事,文部科学省中央教育審議会専門員(初等中等教育分科会)情報教育に関するワーキンググループ委員,仙台市情報モラル教育推進会議アドバイザー。