「7年目を迎えた石巻の就労課題とこれから」~若者支援の現場から~ 認定NPO法人Switch
その他
2017/05/17 17:00
「7年目を迎えた石巻の就労課題とこれから」~若者支援の現場から~ 認定NPO法人Switch
石巻市は、宮城県第二の都市として、古くから海運の要所として栄えてきました。中心市街地は旧北上川沿いに発展し、商店街も仙台とは別の独立した商圏として発展しました。
私が子どもの頃は、デパートが複数あり、その周辺に書店、スーパー、土産物屋などが所狭しと立ち並び、週末には商店街を歩くのも一苦労だったことを憶えています。
2011年、東日本大震災をきっかけに、ピーク時に186,000人を超えた人口は146,000人まで減少し、郊外型大型店の出店などにより、中心市街地はひっそりとしています。
震災時には最大で5万人以上の方が避難を余儀なくされ、2万棟以上の建物が全壊し、死者、不明者数3,600人という大きな被害を受けた石巻市において、若者が安心して「はたらく」環境は、まだまだ充分ではないのが現状です。
石巻市の有効求人倍率は、震災の前後で低く推移していましたが、震災後の復興需要もあり、平成24年度以降は高止まりを続けています。
一見「売り手市場」に見える石巻の雇用状況ですが、中身を見るといろいろな課題があることがわかります。最も大きな課題となるものが、業種の偏りによる「雇用のミスマッチ」です。石巻の有効求人倍率を業種別に見てみると保安や建設などの仕事は6~7倍もの求人倍率で、非常に深刻な人材難だということがわかりますが、一般事務や清掃などは0.4~0.9倍と、1件の求人に対して複数の方が応募している状態だということがわかります。
この傾向から、体力に自信のない方や、職場まで車で移動することが出来ない方などが選ぶ仕事の幅が、非常に狭くなっていることがわかります。
環境の変化と若者の抱える課題
私たちはこれまで「ユースサポートカレッジ石巻NOTE」にて「まなぶ」ことや「はたらく」ことに課題を抱えたたくさんの若者と出会ってきました。
その中に、沿岸部で被災し、内陸の仮設住宅に移転したまま、3年ほど引きこもってしまった若者がいました。震災前はいくつか仕事も持ち、家族で暮らすことが出来ていたのですが、家は流出し、来たこともない地域の仮設住宅に暮らすことになりました。近くのコンビニに買い物に行くにも車で15分程度かかってしまうため、車のない彼は買い物に行くこともままならない日々が続き、体力的な不安も加わり、徐々に仮設住宅の奥に引きこもるようになってしまいました。
もともと石巻の交通の便の悪さ、携帯電話、インターネットの普及などもあり、現在でも仮設住宅の奥に引きこもる若者は多く、これまでに20名以上の仮設住宅居住中の若者が、石巻NOTEを訪れました。
小さなきっかけから次の一歩へ
一方で、彼らはゲームやパソコンが大好きで、高いITスキルを持っていたということもあり、週に1,2回、午前中の時間帯で、彼らに体系立てたITトレーニングを提供しました。それまでゲームのためだけに費やしていた自分のスキルや時間を、「学ぶこと」や「はたらくこと」に活かすことが出来ることに気づき、唯一パソコンだけは誰にも負けないという「武器」にすることが出来ました。
▲自分のつよみを活かして
パソコンを学ぶには、石巻NOTEに来るために定期的に外に出なくてはなりません。週に1,2回、彼は自分の意志で家から出かけるようになり、バスや電車での外出をするようになりました。
このことをきっかけに、彼は職場体験やインターンシップ、そして有給の職業体験プログラムなどにも参加し、現在は本格的な就労に向けた最終準備に入っています。
地域の多様性を体感する
また、私たち認定NPO法人Switchは、2年前から石巻郊外で小さな農園をスタートしました。ここには「まなぶ」ことや「はたらく」ことに課題を抱えた方だけではなく、地域とのつながりや、多様性を感じていただくために、学生や地域の市民、中には行政職員や企業人まで、幅広い人たちが集まり、お互いが誰かもわからないまま、同じ作業を協働で進めて行きます。
震災で家族を失ったおじいさんが、引きこもりの若者に農業の基本を教えていたり、他人と対話することが全くできない若者が、気づいたら2,3人集まって無言で作業を進めていたり、お互いに何の偏見もない状態で、一つの作業に没頭できる場として、農園は機能しています。
▲農作業を通してつながる
人は役割を失った時点で、その地域への愛着を失ってしまいます。課題を抱えている方も抱えていない方も、仮設住宅に住んでいる方も再建した方も、それぞれの役割を持ち、同じ場所で同じ農作業に関わっていくことで、地域の多様性を体感するとともに、震災を体験した者同志として、自然に語り合うことが出来る場の存在は、今の石巻になくてはならない場であると考えています。
仮設住宅と復興の格差
平成29年2月末現在、石巻市でプレハブ仮設に入居している方は4,823人います。最大時の16,788人に比べるとだいぶ減りましたが、キャリアや経験がある、再建資金がある、都市部への人脈がある、など、力のある人から順番に仮設住宅を退去して行き、高齢者や障がい者、そして無業者など、再建力の弱い方がプレハブ仮設に取り残されて行くという現象が、現在石巻では起こっています。
仮設住民は、今までの住み慣れた土地から急に環境が変化し、学校や、家族の職業や、近所付き合い、買い物、移動手段、家計状況など、多くのことが目まぐるしく変化して行きます。再建に向けた大きな不安を抱えながら、それでも自分の人生を生きて行かなければならない彼らにとって、その土地で学び続けたり、働き続けたりすることに不安を感じることは、当然のことかもしれません。
若者たちを地域の担い手に
2030年には、石巻市の15歳から64歳の生産人口は、現在の87,000人から68,000人に減少し、より多くの高齢者を少ない若者が支えて行かなくてはならない時代に突入します。そうなったときに地域を担う若者に元気がなかったら、地域は立ち行かなくなってしまいます。
私たち認定NPO法人Switchは、この時代を乗り切るためには地域のあちこちで埋もれそうになっている若者を様々な方法で外に出てきていただき、社会の中で「本物の経験」を積みながら、将来的に「地域の担い手」になることが重要であると考えています。
▲イシノマキ・ファームで収穫!
障害や高齢、地域、年齢、国籍、出身地などの見えない壁を少しずつ低くし、誰もが希望を持って「学び」「はたらく」ことが出来るような「社会的包摂」を石巻で実現することで、より多くの人が地域で活躍し、持続可能な地域の仕組みを作ることが出来ると考えています。
認定NPO法人Switch
〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡1-6-3
東口鳳月ビル6階
●TEL:022-762-5851
●E-mail:info@npo-switch.org
●URL:http://www.switch-sendai.org/
月刊杜の伝言板ゆるる2017年4月号
http://www.yururu.com/?p=2332
石巻市は、宮城県第二の都市として、古くから海運の要所として栄えてきました。中心市街地は旧北上川沿いに発展し、商店街も仙台とは別の独立した商圏として発展しました。
私が子どもの頃は、デパートが複数あり、その周辺に書店、スーパー、土産物屋などが所狭しと立ち並び、週末には商店街を歩くのも一苦労だったことを憶えています。
2011年、東日本大震災をきっかけに、ピーク時に186,000人を超えた人口は146,000人まで減少し、郊外型大型店の出店などにより、中心市街地はひっそりとしています。
震災時には最大で5万人以上の方が避難を余儀なくされ、2万棟以上の建物が全壊し、死者、不明者数3,600人という大きな被害を受けた石巻市において、若者が安心して「はたらく」環境は、まだまだ充分ではないのが現状です。
石巻市の有効求人倍率は、震災の前後で低く推移していましたが、震災後の復興需要もあり、平成24年度以降は高止まりを続けています。
一見「売り手市場」に見える石巻の雇用状況ですが、中身を見るといろいろな課題があることがわかります。最も大きな課題となるものが、業種の偏りによる「雇用のミスマッチ」です。石巻の有効求人倍率を業種別に見てみると保安や建設などの仕事は6~7倍もの求人倍率で、非常に深刻な人材難だということがわかりますが、一般事務や清掃などは0.4~0.9倍と、1件の求人に対して複数の方が応募している状態だということがわかります。
この傾向から、体力に自信のない方や、職場まで車で移動することが出来ない方などが選ぶ仕事の幅が、非常に狭くなっていることがわかります。
環境の変化と若者の抱える課題
私たちはこれまで「ユースサポートカレッジ石巻NOTE」にて「まなぶ」ことや「はたらく」ことに課題を抱えたたくさんの若者と出会ってきました。
その中に、沿岸部で被災し、内陸の仮設住宅に移転したまま、3年ほど引きこもってしまった若者がいました。震災前はいくつか仕事も持ち、家族で暮らすことが出来ていたのですが、家は流出し、来たこともない地域の仮設住宅に暮らすことになりました。近くのコンビニに買い物に行くにも車で15分程度かかってしまうため、車のない彼は買い物に行くこともままならない日々が続き、体力的な不安も加わり、徐々に仮設住宅の奥に引きこもるようになってしまいました。
もともと石巻の交通の便の悪さ、携帯電話、インターネットの普及などもあり、現在でも仮設住宅の奥に引きこもる若者は多く、これまでに20名以上の仮設住宅居住中の若者が、石巻NOTEを訪れました。
小さなきっかけから次の一歩へ
一方で、彼らはゲームやパソコンが大好きで、高いITスキルを持っていたということもあり、週に1,2回、午前中の時間帯で、彼らに体系立てたITトレーニングを提供しました。それまでゲームのためだけに費やしていた自分のスキルや時間を、「学ぶこと」や「はたらくこと」に活かすことが出来ることに気づき、唯一パソコンだけは誰にも負けないという「武器」にすることが出来ました。
▲自分のつよみを活かして
パソコンを学ぶには、石巻NOTEに来るために定期的に外に出なくてはなりません。週に1,2回、彼は自分の意志で家から出かけるようになり、バスや電車での外出をするようになりました。
このことをきっかけに、彼は職場体験やインターンシップ、そして有給の職業体験プログラムなどにも参加し、現在は本格的な就労に向けた最終準備に入っています。
地域の多様性を体感する
また、私たち認定NPO法人Switchは、2年前から石巻郊外で小さな農園をスタートしました。ここには「まなぶ」ことや「はたらく」ことに課題を抱えた方だけではなく、地域とのつながりや、多様性を感じていただくために、学生や地域の市民、中には行政職員や企業人まで、幅広い人たちが集まり、お互いが誰かもわからないまま、同じ作業を協働で進めて行きます。
震災で家族を失ったおじいさんが、引きこもりの若者に農業の基本を教えていたり、他人と対話することが全くできない若者が、気づいたら2,3人集まって無言で作業を進めていたり、お互いに何の偏見もない状態で、一つの作業に没頭できる場として、農園は機能しています。
▲農作業を通してつながる
人は役割を失った時点で、その地域への愛着を失ってしまいます。課題を抱えている方も抱えていない方も、仮設住宅に住んでいる方も再建した方も、それぞれの役割を持ち、同じ場所で同じ農作業に関わっていくことで、地域の多様性を体感するとともに、震災を体験した者同志として、自然に語り合うことが出来る場の存在は、今の石巻になくてはならない場であると考えています。
仮設住宅と復興の格差
平成29年2月末現在、石巻市でプレハブ仮設に入居している方は4,823人います。最大時の16,788人に比べるとだいぶ減りましたが、キャリアや経験がある、再建資金がある、都市部への人脈がある、など、力のある人から順番に仮設住宅を退去して行き、高齢者や障がい者、そして無業者など、再建力の弱い方がプレハブ仮設に取り残されて行くという現象が、現在石巻では起こっています。
仮設住民は、今までの住み慣れた土地から急に環境が変化し、学校や、家族の職業や、近所付き合い、買い物、移動手段、家計状況など、多くのことが目まぐるしく変化して行きます。再建に向けた大きな不安を抱えながら、それでも自分の人生を生きて行かなければならない彼らにとって、その土地で学び続けたり、働き続けたりすることに不安を感じることは、当然のことかもしれません。
若者たちを地域の担い手に
2030年には、石巻市の15歳から64歳の生産人口は、現在の87,000人から68,000人に減少し、より多くの高齢者を少ない若者が支えて行かなくてはならない時代に突入します。そうなったときに地域を担う若者に元気がなかったら、地域は立ち行かなくなってしまいます。
私たち認定NPO法人Switchは、この時代を乗り切るためには地域のあちこちで埋もれそうになっている若者を様々な方法で外に出てきていただき、社会の中で「本物の経験」を積みながら、将来的に「地域の担い手」になることが重要であると考えています。
▲イシノマキ・ファームで収穫!
障害や高齢、地域、年齢、国籍、出身地などの見えない壁を少しずつ低くし、誰もが希望を持って「学び」「はたらく」ことが出来るような「社会的包摂」を石巻で実現することで、より多くの人が地域で活躍し、持続可能な地域の仕組みを作ることが出来ると考えています。
認定NPO法人Switch
〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡1-6-3
東口鳳月ビル6階
●TEL:022-762-5851
●E-mail:info@npo-switch.org
●URL:http://www.switch-sendai.org/
月刊杜の伝言板ゆるる2017年4月号
http://www.yururu.com/?p=2332