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「発酵の ふしぎ発見!」第1回 発酵食品・醸造物について

宮城大学

2016/06/06 14:18

第1回 発酵食品・醸造物について

発酵食品・醸造物は、微生物の作用による「発酵」作用によって製造されます。発酵は、微生物の作用によって起こされる分解作用で、特に人間の役立つものを指します。

ところで、微生物は、40億年も前には誕生し、原始地球の海で進化していきました。現在、菌類は69,000種、細菌は未発見も含め約40,000~400,000種あるといわれています。

これら微生物は、食材に生育することで、発酵作用がおき、当時の人間が偶然にそれを見つけ出したことから始まったと考えられます。当然、微生物学的知識がなく、食品として適しているものかどうかは、口にして経験的に選ばれていったことでしょう。

例えば、ワインです。はじめは、ブドウや果物は、「生食」食べるために蓄えていたに違いありません。しかし、ブドウや果物を保存中、偶然発酵しはじめたのを発見し、さらに、その液体は長期保存できることを発見したことでしょう。さらに、発酵物は、香りがよく、嗜好性に富んでおり、美味しいという特徴も発見したことでしょう。

近代から現代にかけて、微生物の発見や、ワイン製造の技術などから、低温殺菌の条件や光学異性体(同じ構造なのにある官能基の向きが違う)の発見など科学技術の発展にも貢献してきました。さらに、栄養価や機能性なども発見され、今ではワインの抗酸化性や、心疾患の予防にまでの効果が知られています。

このように、発酵食品は、古くから伝わるものですが日々変化し、これからも変化続けています。この発酵食品の面白さを、これから5回にわたり皆さんにご紹介したく思います。

「甘酒」 ~甘酒は飲む点滴!?~

甘酒は、「飲む点滴」と言われます。実際に点滴に使われているわけではありません。点滴と同じように体の吸収がよく、栄養価に富んでいるという意味で点滴とたとえられています。実際に甘酒の栄養成分を見てみましょう。

五訂増補日本食品標準成分表によると、お米由来の炭水化物やタンパク質が豊富に含まれております。加えて、ビタミンドリンクと比べると比較すると僅かですが、ビタミンB群のビタミンも含まれていることもわかります。特にビタミンB類は、皮膚や粘膜の機能維持に関わるものが多いです。

甘酒の中では、原料の麹(お米に麹菌という食用のカビの一種が生育したもの)が生産した酵素によって、原料のお米のデンプンはブドウ糖や麦芽糖などに変換・分解されています。また、お米のタンパク質も、アミノ酸へと変換・分解されています。つまり、甘酒は、お米の分解物がきゅ~~と濃縮されているというわけです。

五訂増補日本食品標準成分表より (くわしくは、こちらから

ところで、私たちの体は、お米を食べると、膵臓から分泌されるアミラーゼや胃液ペプシンなどの消化酵素で、体に吸収されやすいブドウ糖やアミノ酸に、変換・分解されます。お米そのままでは、我々の体の栄養素にはなり得ません。

一方、甘酒は麹菌のパワーで、体に吸収されやすいお米分解物のブドウ糖やアミノ酸の形になっており、吸収されやすいのです。つまり、甘酒は、消化酵素なしでも、点滴のように栄養素が、体に吸収されやすい形になっているのです。


甘酒を造る元となる麹をつくる麹菌

ところで、このような甘酒ですが、甘酒を飲む「旬」の季節がいつかお分かりですか?

甘酒の旬は「夏」! 俳句の季語もなんと「夏」なんです。

発酵学者小泉武夫先生は、その著書の中で、(江戸中期以降の)古い墓石の死亡時期を調査し、夏に亡くなる人が多いことを突き止め、この時代には、エアコンも扇風機もなく、衛生環境悪い時代のこと、暑さや体調不良で亡くなる人が多いのだろうと書いています。

そこで、滋養強壮のために、江戸の人々は甘酒を飲んでいた!「まさに飲む点滴だ」と結論付けていました。そのことより、甘酒の「旬」は夏なのです。

明治の俳人正岡子規は、真夏の昼下がりに甘酒を飲んで一休み風景する情景を「甘酒も飴湯も同じ樹陰かな」と読んでいます。とは言っても、寒い時期に飲む甘酒は、体が温まり美味しいです。

江戸の初期の俳人松尾芭蕉は「寒菊や 醴 造る 窓の前」という歌を残し、冬に天秤棒を担いで売りに行く前に、甘酒( 醴 )売りの(男)が甘酒を造る日常を俳句にしたものを残しております。

江戸の人々は、季節を問わず、甘酒を楽しんでいたのでしょうね。是非皆さんも、甘酒を楽しんでみてください。

「あま酒も天の美禄」といったところでしょうか?





次回は「第2回 「進撃の(小さな)巨人」 ~ヨーグルトだけじゃない乳酸菌~」です。
配信日程:6月7日(火) 予定


【プロフィール】
金内誠
1971年米沢市生まれ
1994年3月 東京農業大学農学部醸造学科 卒業
1999年3月 東京農業大学大学院農学研究科
博士後期課程生物環境調節学専攻 修了
博士(生物環境調節学)
1999年4月 東京農業大学酒類生産学研究室(小泉武夫教授) 博士研究員
1999年11月 カリフォルニア大学デーヴィス校 博士研究員
2003年8月不二製油㈱入社 フードサイエンス研究所配属
2005年4月宮城大学食産業学部 フードビジネス学科 助手
2009年4月同 准教授
現在に至る