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「発酵の ふしぎ発見!」第4回 水産物を「醸す」 ~オキアミ醤油~

宮城大学

2016/06/09 10:05

第4回 水産物を「醸す」 ~オキアミ醤油~

この前新商品が出たと思ったらもう終売。こんなことありませんか?

食品開発において、「出ては消える」頻度が早くなってきています。そこで、健康イメージの強い「発酵」という新しい付加価値を付けた商品開発が望まれています。さらに、これまで我々の生活の中にあった発酵食品を利用した新商品の再提案もなされています。

古いものを再提案し、新しい形で商品開発した成功例は、株式会社にんべんが運営している「日本橋だし場」です。

伝統的発酵食品の鰹節を使った「だし」を洋風のトマト味にしたり、気軽に飲めるようにスダンドバー方式にしたりしています。

このような、温故知新の考え方で、三陸産の水産物イサダ(オキアミ)を使った調味料生産を「株式会社木の屋石巻水産」と試みました。

イサダは2~4初旬にかけて宮城県から岩手県にまたがる三陸沖で収穫されるツノナシオキアミのことです。オキアミは動物性プランクトンの一種で、形状や味がエビに似ていることから小型のエビと間違えられていますが、生物学的にまったく異なります。

イサダは大量に捕獲でき、自己消化が早いことから、生の状態での保存が難しいものです。そこで、塩水でボイル後に乾燥させ利用されています。イサダは、高栄養でありますが、安価で飼料としては、魚の練餌や養殖のまき餌、一部は食用としては「エビせんべい」などの具材として使用されています。

木の屋石巻水産、宮城県工業技術総合センター、宮城大学、そしてNPO法人日本発酵文化推進機構の小泉武夫先生と四者で、イサダの魚醤油化を試みました。

魚醤油といえば、みなさんは「ナンプラー」など東南アジア産の香気が強いイメージをもっています。しかし、この製品は、醤油の香気を呈しながら、イサダの香味を十分に引き出したものです。

成分的には、市販醤油と同等でした。また、うま味アミノ酸の組成を比較したところうま味の中心のグルタミン酸が2200mg/100mLとしょうゆの1440 mg/100mLより多く、他の魚介原料の魚醤より高いものでした。また、エビの独特の甘みを与えるグリシンは、421 mg/100mLとしょうゆの310 mg/100mLよりも多く、原料由来の甘味を残すものでした。

これらを官能評価したところ、市販のナンプラーよりも香気がよく、味のバランスも整っており、しょうゆと同等以上の旨みを有しているとのコメントがあり、非常に香味的にも優れたものでした。

このように、新鮮な魚介類のイメージがあった三陸産に、新たな特産品として、エビ風味のイサダ(オキアミ)醤油が出来上がりました。

「腐っても鯛」 なら オキアミは「発酵させたら魚醤油」。


イサダ醤油製造 もろみ


イサダ醤油製造 圧搾(搾り)


イサダ醤油 完成品

次回は「第5回 大学生吟醸酒を「醸す」~新澤酒造店との酒造りの取り組み~」です。
配信日程:6月10日(金) 予定

【プロフィール】
金内誠
1971年米沢市生まれ
1994年3月 東京農業大学農学部醸造学科 卒業
1999年3月 東京農業大学大学院農学研究科
博士後期課程生物環境調節学専攻 修了
博士(生物環境調節学)
1999年4月 東京農業大学酒類生産学研究室(小泉武夫教授) 博士研究員
1999年11月 カリフォルニア大学デーヴィス校 博士研究員
2003年8月不二製油㈱入社 フードサイエンス研究所配属
2005年4月宮城大学食産業学部 フードビジネス学科 助手
2009年4月同 准教授
現在に至る