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「みんなに知ってほしい!がんの痛みの克服法」 第2回 痛みはがまんしない

宮城大学

2016/08/10 10:30

第2回 痛みはがまんしない

がん患者の53%に痛みが生じると言われています 1)。がんの痛み(がん性疼痛)は、一時的な刺激や急な炎症と異なり、すぐに痛みの原因が取り除けないことがほとんどのため、24時間、数日、数ヶ月にわたって痛みが持続するのが特徴です。

痛みそのものがつらいだけでなく、痛みが続くことで生活面、その人らしさにも悪影響を及ぼします。痛みをがまんせずに、しっかり抑えることが大切です。今回は、痛みによる様々な影響について説明致します。

痛みがあると人は自然と痛い部分をかばう姿勢をとります。痛い部分がはっきりしない時には、背を丸めて、ひざや腕をお腹側に寄せて、縮こまる姿勢をとります。そして、思わず歯を食いしばってしまいます。そのことで、肩や背中、首等の筋肉が緊張し、肩凝り、腰痛などを引き起こしてしまいます。

また、痛みは、何らかの攻撃があり、対処しなければならないことが身に降りかかっているサインとして捉えられます。そのため、身体は交感神経を奮い立たせ攻撃に応じる準備をします。

交感神経が興奮すると、目や頭はさえて、唾液の分泌や胃腸の動きが低下し、戦闘体制を整えるのです。すると、人は眠らなくても大丈夫と感じ、お腹がすいたという感じもなくなります。本当に外からの攻撃がある時には、この反応は非常に有効な反応となります。

しかし、がん性疼痛のように持続性の痛みが、24時間、数日、数ヶ月にわたって続く場合には、不眠や食欲不振で消耗してしまう悪影響になります。

不眠や食欲不振が続くと、だるさが生じ、集中力が低下してきます。このような状態の時には、いつもなにげなく行っている生活習慣にさえ支障がでてきます。外出時に鍵をかけ忘れる、携帯電話を失くす、料理で火傷する等、これまで自然にできていたことのリズムがくずれ、痛みが持続することで生活にも影響が生じてしまうことがあります。

ましてや、がんに罹った時は通常の日常生活に加えて、がん治療のことを悩み、心を決めて、治療に挑まなければなりません。治療に関することや、病気を機会に家族や仕事上の役割を調整することにもエネルギーを注ぎたいところです。痛みによって消耗し、意気消沈している場合ではないのです。

持続する痛みは、体のさまざまな面に影響し、さらに日々の生活や社会的な役割にも影響してきます。早いうちに、痛みをコントロールすることが大切です。

日本人の美徳の1つに“がまん”“忍耐”があります。「痛みをがまんすることが、痛みに負けないことだ」という言葉もどこかで耳にしたことがあります。しかし、がん性疼痛のコントロールに、この日本文化をあてはめてほしくないと思います。

がん性疼痛をがまんせず、強い痛みになる前に、早期の段階から鎮痛剤で痛みを抑えて、十分に睡眠や食事がとれるよう、体力や気力を維持できるようコントロールすることが大切だからです。

早期の段階からしっかり痛みのコントロールをするために、今の医療は大変進歩しました。「痛み止めは胃に悪い」「痛み止めを飲むと癖になる」という語り草は、今では少し変化してきました。

1番の進歩は、3種類のがん性疼痛それぞれに効果のある薬剤の種類が増えてきていることです。また、薬剤の形も、飲み薬、座薬、貼り薬、注射薬など、患者さんが負担なく使える種類が増えてきています。

さらに、重要な進歩は、がん医療に携わる医師を始めとして看護師、薬剤師等の研修が盛んにおこなわれ、患者さんの痛みを理解する方法、がん性疼痛の説明方法、薬剤の使用方法を習得した医療者が増えていることです。

がん性疼痛をコントロールするために、進歩した医療を患者さんへ適切に届けるために、1つお願いがあります。

痛みは、心電図や血圧計のような器具で図ることができないのです。

患者さんが、医師や看護師へ「痛い」「苦しい」と教えて頂くことが、痛みをコントロールする鍵となるのです。

1) 日本緩和医療学会編集:専門家をめざす人のための緩和医療学,南江堂,2014

次回は「第3回 患者が治療に参加してがん性疼痛を克服しよう」です。
配信日程:8月11日(木)配信予定

【プロフィール】
菅原 よしえ(すがわら よしえ)
宮城大学大学院看護学研究科 教授

石巻赤十字看護専門学校を卒業後、病院看護師として勤務。増加するがん患者に対する看護を学ぶため、兵庫県立看護大学大学院に進学。修了後、がん看護専門看護師として活動する。平成22年から現在の宮城大学大学院看護学研究科にて、がん患者の力になれる看護師の育成に携わっている。