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「少年犯罪は増えているのか?」第1回 少年事件を見る社会の目

東北福祉大学

2016/09/05 10:10

第1回 少年事件を見る社会の目

時折 ,未成年者による凄惨な事件が報道されます。

海外で頻発するテロ事件や近隣諸国の軍事的な緊張より,一人の少年の犯行が異質な暗みをもって我々の心に刺さり,底知れぬ不安をかき立てるのはなぜでしょうか。

どこか「対岸の火事」と見なせる(そうしておきたい)海外の脅威より,「明日は我が身」と感じざるを得ない,日常場面での凶行に不安を覚える市民も少なくないと思われます。

凶悪事件が増加したかのように報じられることもありますが,法務省が毎年発行する『犯罪白書』によれば,未成年者による殺人や強盗などいわゆる凶悪犯罪が増加しているわけではないことが分かります(図は平成 23年度版から引用。
いずれも各年代10万人あたりの検挙率)。

図.少年・若年者による一般刑法犯(主要罪名)検挙人員の人口比の推移
(平成元年~22年)




ニュースの構成は物語(ストーリー)を基本スタイルとするため,このような犯罪統計が報道されにくいという指摘もあります(大庭 ,2013)。メディアの役割は事実を正確に伝えることで,ニュース解説やコメントが視聴者の理解を深め,オピニオンの形成を助けます。

しかし,死体遺棄現場の映像はもとより残虐な行動に及ぶ容疑者の行動をアニメーションで再現し,容疑者の語る言葉そのままをナレーションするなど,手の込んだ構成は事件の理解を助ける以上に生々しいイメージを喚起するものです。

我々犯罪心理学を専門とする特殊な動機を持った者以外,事件を掘り下げて知りたいという視聴者がどれ位いるかはわかりませんが,家族団らんの中で犯行場面を疑似体験したいというニーズは少ないでしょう。現代は地デジやデータ通信, BS,SNS など多様な発信媒体がありますので,発信内容で媒体を使い分けるなどの配慮が欲しいものです。

《文献》
法務省法務総合研究所(2011).犯罪白書(平成23年版)―少年・若年犯罪者の実態と再犯防止―
大庭絵里(2013).犯罪ニュースにおける犯罪の波―なぜ犯罪の減少は人々の話題にならないのか―,犯罪社会学研究,38,97-105.


次回は『第2回 「普通の子」の犯罪か?』です。
配信日程:9月6日(火)配信予定


【プロフィール】
半澤 利一(はんざわ としかず)
東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科准教授
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家庭裁判所調査官や臨床心理士として勤務した経験に基づき,非行少年や犯罪者の心理アセスメント,心理社会的支援などについて研究する。司法矯正職員を目指す学生の教育にも力を入れている。