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「少年犯罪は増えているのか?」第2回 「普通の子」の犯罪か? 

東北福祉大学

2016/09/06 09:46

第2回 「普通の子」の犯罪か?

前回は犯罪報道について述べましたが,現実に起きている少年の凶悪事件に話を転じます。筆者はかつて二十年あまり家庭裁判所調査官として少年事件の調査や処遇に関与しました。その中で,メディアが連日大きく取り上げる,いわゆる大事件の調査も担当しました。

その事件の容疑者である男子高校生はいわゆる「普通の子」です。

部活動では活躍できないながらも学業成績もそこそこ,おとなしく,万引きなどの非行歴や補導歴もない,ひょろっとした色白の少年でした。この少年が,ある日,少女を姦淫する目的で殺害することを計画し,大型ナイフを手に通学用の自転車で近隣を物色。夕暮れ時の人気(ひとけ)の無い場所を下校する被害者を狙い,いきなり首筋を切りつけました。

幸い致命傷にはならず,大声で叫ばれたことから少年も逃走しましたが,後日同様の犯行を自分の通学路付近で実行しました。面接調査で,時折笑顔を見せながら身ぶり手ぶりを交えて犯行の状況を話す様子は,まるで野球で活躍した小学生時代を誇らしげに語る少年のようでした。

筆者は,人間としての軸がぶれるような違和感を覚えながら聞き取りを続けた記憶があります。犯行の同日,夕食中にサイレンの音を聞き,好きなアニメ番組を見,深夜の番組で自らの犯行が速報されるのを見て達成感めいた気持ちになったと言います。

見た目は普通の子ですが犯行は普通の行為ではない。少年は,恐怖におののく表情を見ながら強姦したかった,と動機を語りましたが,周囲が戦慄するような独特の趣向やこだわり,ものの考え方など,心理的異形とも言える一面を持っているものです。

「普通の子がなぜ?」と報道されると「うちの子は大丈夫か」という不安を払い,容疑者の少年が特別なのだと一線を引きたいために画面に食い入る視聴者も多いのではないでしょうか。

次回は「第3回 事件の質的な変化」です。
配信日程:9月7日(水)配信予定


【プロフィール】
半澤 利一(はんざわ としかず)
東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科准教授
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家庭裁判所調査官や臨床心理士として勤務した経験に基づき,非行少年や犯罪者の心理アセスメント,心理社会的支援などについて研究する。司法矯正職員を目指す学生の教育にも力を入れている。