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「少年犯罪は増えているのか?」第5回 ではどうするか?

東北福祉大学

2016/09/09 09:53

第5回 ではどうするか?

一般に少年の逸脱は,周囲の大人たちへの反抗的な言動や服装違反から始まり,喫煙や夜間はいかいという行為を経て地元の不良交遊が始まります。望ましい生活態度や規範から離反するプロセスを経て,明らかに不良然としたいで立ちや振る舞いをするようになると,何らかの理由やきっかけで暴行したり,盗んだり,恐喝事件などの反社会的な行動に及ぶのが通常の非行(少年事件)です。

これに対し,補導歴や非行歴のない「普通」の少年が,突然重大な犯罪を犯すことを「いきなり型非行」と言います。

この代表的な事例としてよく引き合いにされるのが,平成10年に起きた「黒磯女性教師殺害事件」です。少年は当時13歳。それまで特段の問題行動もなく,おとなしくて目立たない少年が,教師の指導に怒り,所持したバタフライナイフで連続的に刺して死亡させました。

家庭裁判所調査官研修所(※現在は「裁判所職員総合研修所」に改編)は,2001年に実証的研究の結果を発表しています。家庭裁判所で審理した重大事件について,事件の原因や背景,前駆的な行動を元に①幼児期から問題行動を頻発していたタイプ,②表面上は問題を感じさせることのなかったタイプ,③思春期になって大きな挫折を経験したタイプの3類型に分類して多角的に分析したところ,一人で殺人事件を犯した少年に共通する特徴として,追い詰められた心理や現実感覚の乏しさ,自己イメージの悪さなどの心理特性や家庭環境,交友関係の持ち方の特殊性などの共通項を見出しました。

特に②の少年たちについては,「発達的な偏りが大きく,表情が乏しく,他者との生き生きとした関係が持てない…限られたパターンや解決方法によって表面的に適応している」と指摘しています。

しかも,これらの少年は「常に劣等感を抱いたり」「事件の直前に,深い挫折感を抱き,あるいは追い詰められた心境となっている」というのです。

傍目にはおとなしく,目立たない少年が凶行に及ぶとき,内面的には必ずその動機となる暗い葛藤状態があるものです。人はそれを「心の闇」と呼ぶのでしょう。

少年による突然の凶悪事件が報道されると,周囲の誰かがその「闇」に気づき,声をかけ,手を差し伸べていれば,と誰しも思うところですが,そういう状態になっている少年は口を閉ざし,心を閉ざしていることも少なくありません。

しかし,一般の人々からアプローチすることが難しくなった少年の心理について,さまざまなテクニックを駆使して読み解くプロフェッショナルが実は身近にいるのです。各都道府県にある少年鑑別所が併設する「法務少年支援センター」では,矯正心理職(法務技官)や法務教官という心理分析や矯正教育の専門家が心理相談や指導方法の提案などを無料で行っています。仙台少年鑑別所では「ふるじろ心の相談室」として相談に応じています(仙台市若林区古城3丁目27-17/022-286-2322(相談専用))。

大人は,「普通」という目立たない装いに隠れた少年の心の闇を見過ごさず,それぞれのたたずまいに向き合い,時に専門家の協力を得て見守って行きたいところです。そうすれば,普通の少年は,普通の人生を歩んでくれる筈ですから。
 
《文献》
家庭裁判所調査官研修所(2001).重大少年事件の実証的研究 司法協会

【プロフィール】
半澤 利一(はんざわ としかず)
東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科准教授
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家庭裁判所調査官や臨床心理士として勤務した経験に基づき,非行少年や犯罪者の心理アセスメント,心理社会的支援などについて研究する。司法矯正職員を目指す学生の教育にも力を入れている。