佐藤 拓雄
2023/03/13
【写真】は今年3月11日の仙台放送前です。
12年前のあの日、地震の後、大粒の雪が降り出しました。その中で、この仙台放送前の歩道を、それまで見たことがないほど多くの人が、おそらく家に向かってぞろぞろと歩いていた光景が忘れられません。
それから12年が経ちました。
去年も書きましたが、時間が経てば経った分、震災を経験していない世代が多くなります。
私たち仙台放送でも、震災後の入社が毎年少しずつ増えて、アナウンス部では、現在12人のうち7人が震災後の入社、という構成になりました。
震災後入社の世代が震災をどう伝えていくか、という課題は、同時に、震災を経験した私たちの世代が、どうやって次の世代につないでいくか、という課題でもあると思います。
そういうなかで、去年、今らしいやり方で、震災を伝える取り組みを行いました。
フジテレビ系列のアナウンサーの研修会で、オンラインによる被災地視察を行ったのです。
私たちフジ系列では、系列内でのアナウンサーの研修が盛んで、これは私が入社するずっと前から続く、すばらしい伝統です。
去年は、仙台放送が幹事社の当番でした。
以前ならば、全国のアナウンサーが宮城に集まって、というところですが、コロナ禍でそれが叶わず、オンラインでも中身の濃い研修をと、知恵を絞ってメニューを考えました。
アナウンスの技術的なことに関するメニューはもちろんですが、仙台放送が幹事で行うからには、震災のことは必ず入れたい。被災地の今、当事者の今を、全国の系列のアナウンサーたちに知ってもらいたい、という思いがありました。
コロナ禍以降、オンラインによる被災地視察の取り組みがどんどん進化していて、語り部の方々もかなり習熟してきているので、語り部の方さえ都合がつけば、オンラインでお話を聞くことは全く難しくないことは分かっていました。
そして、私たちの仕事はテレビ。映像を見て直感的に分かってもらうことを考えるのは本業です。
そこで考えたのは、事前に現地の語り部を撮影して、それを見てもらいつつ、リアルタイムで語り部の話を聞くというハイブリッド方式。現地の様子は、実際に一緒に見て回っているような、バーチャル的な感覚になれるよう、撮影の仕方を工夫しました。現地部分を事前に撮影したのは、当日の天候が読めないためと、回線の不具合のリスクもあるからです。
オンラインにしたことで、その時間だけ都合をつければ参加できるため、非常に多くのアナウンサーが参加でき、録画をアーカイブにすることで、その時間参加できなかった人が後から見られるようにもできました。
また、たまたま当日は宮城県内が猛暑日で、現地を訪れていたら暑さはかなり厄介だったと思われ、これもオンラインの思わぬメリットでした。
「ある意味、実際に訪れる以上のものがあったと思う」と言ってくれたアナウンサーもいて、大きな手応えを感じる研修となりました。
もちろん、実際に現地を訪れて、その空気を肌で感じることも大切ですが、時間や物理的な距離を一気に縮めるオンラインは、震災を伝えることに、全く新たな可能性を広げたと思っています。
テレビの放送を通じて震災を伝え続けていくことは、私たちの主たる手段であることに変わりありませんが、技術の進歩や社会の変化に合わせ、様々なツールを柔軟に駆使していくこと。できることはまだまだあると改めて思っています。
明日は、梅島三環子アナウンサーです。